「今月のガス代、こんなに高いの…?」 毎月の請求書を見て、驚いた経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。 特に、賃貸アパートやマンションでプロパンガス(LPガス)を利用している場合、都市ガスに比べて料金が割高に感じられることが少なくありません。
「賃貸だから仕方ない」と諦めてしまう前に、料金が高くなる仕組みや、ご自身の料金が本当に適正なのかを知ることが重要です。この記事を最後まで読めば、ガス料金に関する疑問が解消され、具体的な解決策がわかります。先に結論となるポイントをお伝えします。
- 賃貸のガス料金が高い主な原因は、大家さんとガス会社の「無償貸与契約」にあり、設備費用が料金に上乗せされている可能性が高いです。
- 入居者であっても、地域の適正価格を根拠に現在のガス会社と「料金の値下げ交渉」を行うことは十分に可能です。
- 料金比較サイトでご自身のガス料金が適正か診断し、客観的なデータを交渉材料として活用することをおすすめします。
- 今後の引っ越しでは「都市ガス」の物件を優先的に選ぶことが、最も確実な対策となります。
各章では、これらの結論に至る理由や、具体的な交渉・節約の方法について、分かりやすく解説していきます。
まずは現実を知る|ご自身のガス料金は本当に高い?
具体的なアクションを起こす前に、まずはご自身のガス料金が客観的に見て高いのかどうかを把握しておきましょう。 検針票(ガスご使用量のお知らせ)をお手元に用意して、基本料金と従量単価を確認してみてください。
プロパンガスの地域別平均価格
プロパンガスは公共料金ではなく「自由料金制」のため、ガス会社が価格を自由に設定できます。そのため、地域や契約するガス会社によって料金が大きく異なります。例えば、(一般財団法人)日本エネルギー経済研究所の石油情報センターが公表しているデータによると、地域別平均価格は以下のようになっています。
| 地域 | プロパンガス平均小売価格 |
|---|---|
| 北海道 | ¥11,063 |
| 東北 | ¥10,210 |
| 関東 | ¥8,601 |
| 中部 | ¥9,015 |
| 近畿 | ¥8,895 |
| 中国 | ¥9,673 |
| 四国 | ¥8,907 |
| 九州・沖縄 | ¥9,177 |
※2025年8月29日時点
これは、一般的な家庭での使用量に近い10㎥を使用した際の料金です。ご自身の請求額と比較することで、大まかな立ち位置を把握できます。お住まいの地域の料金が、この相場から大きくかけ離れていないか比較してみてください。
より正確にご自身の料金を診断したい場合は、専門の料金比較サイトの活用がおすすめです。エネピの「プロパンガス料金シミュレーション」では、検針票の情報を入力するだけで、現在のガス料金が適正価格と比べて高いか安いかを簡単に診断できます。
なぜ?賃貸のプロパンガスが「特に」高い2つの理由
「自分の料金は、やはり相場より高いようだ…」と分かった場合、次にその原因を理解することが重要です。 賃貸物件のプロパンガス料金が高くなりやすい背景には、大きく2つの理由が存在します。
理由1:プロパンガスは「自由料金制」だから
先述のとおり、プロパンガスはガス会社が自由に料金を設定できる「自由料金制」です。 これに対し、道路の下に通された導管で供給される都市ガスは、料金設定に国の認可が必要な「公共料金」としての側面が強く、価格が安定しています。この制度の違いが、料金差の根本的な原因の一つと考えられます。
理由2:大家さんとガス会社の「無償貸与契約」
賃貸物件で特に料金が高くなる最大の要因が、この「無償貸与契約」です。これは、ガス会社がアパートやマンションの大家さんに対し、給湯器やガスコンロ、配管工事などの設備費用を無料で提供する代わりに、その物件のガス供給契約を独占的に結ぶ契約のことです。
- ガス会社:大家さんに設備を無料で提供(初期投資を肩代わり)
- 大家さん:アパート経営の初期費用を抑えられる
- 入居者:ガス会社が負担した設備費用が、月々のガス料金に上乗せされて請求される
つまり、入居者は知らず知らずのうちに、ガス会社が大家さんのために負担した設備費用を分割で支払わされている形になります。この仕組みがあるため、たとえ入居者から料金に対する不満の声が上がっても、大家さんは既存のガス会社との契約を継続せざるを得ない状況になっているのです。
しかし、長年にわたり消費者を悩ませてきたこの商慣行に対し、経済産業省はついにメスを入れました。それが、2024-2025年施行「改正液石法」です。
改正液石法:法改正の4つの要点とは?
液石法(液化石油ガス法)の改正は、2024年7月2日と2025年4月2日に段階的に施行されました。この改正で、ガス事業者による過大な営業行為(無償貸与契約、無償配管工事、紹介料支払いなど)が全面的に禁止となっています。
具体的には、以下の4つの点が規制・改善されます。
- 料金体系の透明化「三部料金制」の義務化(2025年度以降の新規契約に適用):ガス会社は料金の内訳を「基本料金」「従量料金」「設備料金」の3つに明確に分けて請求書に表示することが義務付けられます 。これにより、消費者は何に対していくら支払っているのかを一目で把握できるようになります。
- ガスと無関係な設備費用の請求禁止(2025年度以降の新規契約に適用):さらに、エアコンやWi-Fi、インターホンといった、ガスの消費とは直接関係のない設備の費用をガス料金に上乗せして請求することが明確に禁止されます 。
- 賃貸住宅における画期的なルール(2025年度以降の新規契約に適用):ガス会社は配管や給湯器といったガス供給設備の費用を、入居者のガス料金として請求することが禁止されます。これは前述した「無償貸与契約」の根幹である、設備費用の入居者への転嫁を法的に禁じるものです。
- 契約前の情報提供の強化(2024年夏頃から施行):入居希望者が賃貸借契約を結ぶ前に、大家や不動産会社、ガス会社は、契約予定のガス料金に関する情報を明確に提示することが求められるようになります。
液石法および関連省令の改正は、プロパンガス取引の透明性と公正性を確保するための画期的な一歩であり、消費者にとって大きな改善策となるでしょう。
賃貸入居者が今すぐできる直接的な値下げアクション
「法改正前の賃貸契約だから何もできない…」と考える必要はありません。入居者という立場でも、料金を安くするためにできることはあります。それが「ガス料金の値下げ交渉」です。
「値下げ交渉」の具体的な手順
現在のガス会社に対して料金の値下げ交渉を試みることは、最も直接的な方法です。より有利に交渉を進めるために、押さえておくべきポイントを紹介します。
1. 準備:まずは客観的データを用意します。自身の検針票から従量単価を算出し、地域別平均価格と比較します。さらに効果的なのは、料金比較サイトなどを利用して地域の競争力のある料金プランの見積もりを入手しておくことです。
2. 実行:感情的にならず、事実に基づいて冷静に交渉します。以下は交渉の会話例です 。
- 切り出し: 「ガス料金の見直しについてご相談したいのですが。」
- データ提示: 「〇〇エリアの適正価格を調べたところ、1㎥あたり××円が相場のようですが、当方の単価は△△円とかなり高いようです。料金の見直しをご検討いただけないでしょうか。」
もしガス会社との交渉がうまくいかない場合は、大家さんや管理会社に「現在のガス料金が相場より著しく高く、生活の負担になっている。ガス会社へ料金見直しを働きかけていただけないでしょうか」と働きかけることも必要です。
専門サービス「ガス料金比較サイト」の活用法
自身で情報を集め、交渉を行うことに困難を感じる場合、専門的な第三者サービスを活用することは有効な選択肢です。オンラインで手軽に利用できる「ガス料金比較サイト」は、その代表例です。
エネピでは、利用者が住むエリアで供給可能な複数のプロパンガス会社を仲介し、無料で料金診断や見積もりを提供しています。利用者は現在の料金が適正かどうかの診断を受け、より安価なガス会社からの提案を比較検討できます。
賃貸物件の入居者は、そこで得た見積もりを基に現在のガス会社と交渉したり、場合によっては大家さんと相談してガス会社の変更を検討したりと、次のアクションにつなげることができます。まずはご自身の状況を客観的に把握するために、ぜひ一度「無料診断」をご利用してみてください。
「電力会社の切り替え」による光熱費全体の削減
プロパンガス料金の交渉や変更が難しい場合でも、家計全体の光熱費を削減するための現実的かつ効果的な手段が「電力会社の切り替え」です。
電力会社の切り替えは、新しい電力会社にウェブサイトや電話で申し込むだけで完了します。現在契約している電力会社への解約連絡は、新しい会社が代行してくれるため不要です。
ただし、自身の電気使用量やライフスタイルに合わないプランを選ぶと、かえって料金が高くなる可能性があります。こちらもエネピの「料金シミュレーション」を活用し、確実に安くなる電力会社を探してみてください。
次の引越しで「ガス料金で失敗しない」ための物件選び
これまでの経験と知識を活かし、お部屋探しをする際のチェックポイントをお伝えします。将来の住居でガス料金に悩まされないために、ぜひ参考にしてください。
最優先事項:都市ガス物件の検討
料金の安さと安定性を最優先するならば、可能な限り「都市ガス」が供給されている物件を探すことが最も確実な選択です。不動産情報サイトでは、ガスの種類で物件を絞り込む機能が一般的に備わっています。
プロパンガス物件を精査する際のチェックリスト
立地や間取りなどの条件からプロパンガス物件を選ばざるを得ない場合でも、以下の手順を踏むことでリスクを大幅に軽減できます。
- 料金情報の開示: 不動産会社の担当者に対して、改正液石法が求める情報開示を明確に要求します。「契約予定のガス会社はどちらですか?また、その会社の料金体系(基本料金と従量単価)を事前にご提示いただけますか?」と質問してください。契約前の料金情報開示は、今や消費者の正当な権利です。
- ガス会社の調査: ガス会社名が分かれば、スマートフォンを使い、会社の評判や料金水準について検索します。極端に悪い評判や、相場からかけ離れた料金設定がされていないかを確認します。
もし担当者がガス会社名や料金体系の開示を渋ったり、情報を提供できなかったりした場合は、その物件には不透明な料金体系が隠されている可能性が高いと判断すべきです。そして、それは入居を再考すべき重大な危険信号と捉えるべきです。
まとめ
今回は、賃貸物件のプロパンガス料金が高い理由と、その対策について解説しました。そこで、賃貸入居者がいまの状況を打開するための最も効果的な方法は、以下の手順に沿ったアプローチであることが明らかになりました。
- まずは検針票を確認し、地域の「適正価格」とご自身の料金を比較する
- ガス会社や大家さんに対し、適正価格を根拠にした「料金の値下げ交渉」を準備する
- ガス料金比較サイトを活用し、交渉材料となる「客観的証拠(見積書)」を取得する
- 将来の物件選びでは「都市ガス」を優先的に検討する
本記事で詳述してきた通り、賃貸物件におけるプロパンガス料金の高騰は、業界の構造的な問題すなわち「無償貸与契約」にその根源があります。消費者は長らく、この不透明なシステムの中で不利益を被ってきました。
しかし、状況は変わりつつあります。2024年から2025年にかけて施行される「改正液石法」は、料金の透明化を義務付け、不当な費用転嫁を禁じることで、消費者に有益となる法的権利を与えました。
賃貸物件の入居者にとって、諦めていたガス料金の見直しへ、今こそ一歩踏み出す時です。ここで得た知識が、その一助となれば幸いです。
