大東建託グループのガス会社である「ガスパル」は、特に賃貸住宅にお住まいの方には馴染みのある会社かもしれません。今回はその料金体系やサービスの特徴を分かりやすく紹介します。また、ガス代が高いとされる理由を解き明かし、ご家庭で今すぐ実践できる節約術から、根本的な解決策までを詳しく解説します。
この記事で分かること
- 大東建託のガス代が高いとされる主な3つの理由:「LPガス・ガスパルの料金設定・選べない仕組み」という構造的な問題が、ガス代が高い根本原因です。
- 料金が高いLPガス(プロパンガス)と都市ガスの違い: 自由料金制や配送コストといったLPガス特有の性質が、都市ガスとの価格差を生み、料金の高さに直結しています。
- 自身のガス料金が適正なのか確認する必要性:検針票に記載の「従量単価」を確認し、地域の平均価格と比較することで、自身の料金水準を客観的に判断できます。
- お風呂やキッチンで実践できるガスの節約術:日々の小さな工夫を積み重ねることで、根本的な解決にはならなくとも、月々のガス代を確実に削減できます。
- ガス会社への料金交渉や会社変更の可否:入居者が個人で料金交渉やガス会社の変更を行うことは、契約の仕組み上、原則として不可能です。
- 最も効果的な根本的解決策:高いガス料金の問題から確実に解放されるためには、「都市ガス物件への住み替え」が根本的な解決策です。
ガスパルとは?大東建託グループのガス会社
株式会社ガスパルはエネルギー事業を中心に成長を続ける大東建託グループの主要企業です。大東建託の賃貸住宅を中心に全国約30万戸にLPガスを供給する大手ガス会社として「保安最優先」の姿勢で事業を展開しています。
基本情報:
- 設立: 2002年(平成14年)6月27日
- 本社: 東京都品川区東品川二丁目2番24号 天王洲セントラルタワー11階
- 資本金: 1億2,000万円
- 代表取締役社長: 橋本俊昭
- 従業員数: グループ計1,130名(2025年3月末)
- 売上高: 417億39百万円(2025年3月期、連結)
主な事業内容:
- エネルギー事業(LPガス・都市ガス・太陽光)
- コインランドリー事業
- LPガス設備工事
事業展開:
- 事業所数: 本社・支店・販売所 48ヶ所
-
関連会社:
株式会社ガスパル東北(12ヶ所)
株式会社ガスパル近畿(12ヶ所)
株式会社ガスパル四国(5ヶ所)
株式会社ガスパル中国(12ヶ所)
株式会社ガスパル九州(16ヶ所)
大東ガスパートナー株式会社(1ヶ所)
ガスパルは、大東建託グループの一員として2002年に設立された総合エネルギー企業です。主にLPガスや都市ガスの供給を事業の中心とし、大東建託が管理する賃貸物件への優先的なガス供給を行っています。また、太陽光発電などの再生可能エネルギー事業やコインランドリー事業など、幅広い分野へ事業を拡大しています。
ガスパルは保安の確保を最重視し、独自の高度保安システム(マイクロコンピュータ搭載ガスメーターや遠隔監視システム)を全顧客に設置するなど、24時間365日見守る体制が構築されています。経済産業省や高圧ガス保安協会からの表彰実績も多数あり、業界でも高い安全性が評価されています。
【徹底解説】ガスパルの料金はなぜ高くなるのか?
ガスパルの料金が高い主な理由は、プロパンガス業界全体の構造的問題(自由料金制、供給コストの高さ)に加えて、賃貸物件における競争環境の不足が大きく影響しています。
プロパンガスは「自由料金制」でコストがかかるため
プロパンガスは自由料金制を採用しており、ガス会社が独自に料金を設定できます。都市ガスや電気のような公共料金ではなく、行政の認可を取る必要がありません。そのため一方的な値上げや、不透明な料金体系といった問題が生じる場合があります。
また、配送コストの問題もあります。プロパンガスは都市ガスとは異なり、ボンベに充填されたガスを各家庭にトラックで配送する必要があり、その物流コストが料金に上乗せされます。これは都市ガスがガス管を通じて直接供給されるのに対し、プロパンガスが高額になる要因の一つです。
ガス会社が「選べない」場合があるため
大東建託の物件では、入居時にガスパルと自動的に契約させられることが多く、消費者はガス会社を選ぶ自由がありません。そもそも賃貸物件では大家さんがガス会社を決めるため、入居者に選択権がない場合がほとんどですが、この独占的な状況はより価格競争が起こりにくく、高めの料金設定が維持されやすい環境と言えます。
他社との比較が難しく、価格競争が起こりにくいため
プロパンガス業界では価格競争が十分に行われていません。料金の公開が義務付けられておらず、消費者が比較検討しにくい状況があるためです。また、原料費の影響もあります。プロパンガスは仕入価格の大部分を輸入価格が占めているため、為替や原油価格の影響を受けやすいです。これにより料金の予測が困難で、利用者にとって負担感が大きくなっている一面があります。
ガスパルの料金は本当に高い?地域の平均価格と比較
大東建託のガス料金が高いかどうか客観的に判断するためには、ガスパルの料金体系を地域の平均的な価格水準と比較し、その差額を数値で示すことが不可欠です。ここでは、LPガス料金の算出方法を概説した上で、公的データを用いて具体的な料金比較を行います。
LPガス料金の算出方法:基本料金と従量料金
LPガスの月額料金は、一般的に二つの要素で構成されています。一つは、ガスの使用量に関わらず毎月固定で発生する「基本料金」であり、ガスボンベの配送費、保安管理費、検針費用などが含まれます。もう一つは、ガスの使用量に応じて課金される「従量料金」で、これは「従量単価(1 m³あたりの料金)× ガス使用量」で計算されます。
したがって、料金水準を比較する際には、基本料金と従量単価の両方を注視する必要があります。特に従量単価は使用量が増えるほど請求額に大きく影響するため、重要な比較指標となります。
ガスパルの料金プランと割引制度
ガスパルのLPガス料金は、多くのガス会社と同様に「基本料金」と「従量料金」から成る二部料金制を基本としており、その上で従量料金の単価計算には「スライド制」が採用されていることが多いです。スライド制とはガスの使用量が多くなるほど、1m³あたりの従量単価が段階的に安くなる料金体系です。これにより、ガスを多く使う家庭ほど単価面で有利になる仕組みとなっています。
以下に、ガスパルの料金体系の一例(東京エリア)を示します。
| 項目 | 料金 |
|---|---|
| 基本料金 | 1,980円(税込) |
| 従量料金(0.1~5㎥) | 715円/㎥(税込) |
| 従量料金(5.1~15㎥) | 671円/㎥(税込) |
| 従量料金(15.1~40㎥) | 638円/㎥(税込) |
| 従量料金(40.1㎥~) | 594円/㎥(税込) |
出典:ガスパルの料金一覧_関東
なお、ガスパルでは「おまとめ請求サービス割引」が用意されています。ガス料金を家賃と一緒に支払い、かつWeb明細(紙の明細書発行不要)に同意すると、毎月のガス料金から100円(税込)が割引されます。
データで見る料金比較:全国平均・適正料金との差額
ガスパルの料金が地域の相場と比較してどの程度の水準にあるのかを検証します。ここでは、賃貸集合住宅が多く立地する埼玉県を例にとり、ガスパルの想定料金、石油情報センターが公表する埼玉県の平均価格、そしてエネピが示す「適正料金」の3者を比較します。
| 項目 | ガスパル(想定料金) | 埼玉県 平均価格 | エネピ 適正料金 |
|---|---|---|---|
| 基本料金 | 2,000円 | 1,836円 | 1,500円 |
| 月額料金(約10 m³使用時) | 9,000円 | 8,349円 | 5,991円 |
この比較から、いくつかの重要な点が明らかになります。まず、ガスパルの想定料金は、平均価格とは大差ないものの、適正水準を大きく上回っている可能性があります。その結果、月間10 m³という標準的な使用量でも、月額で約3,000円、年間では約36,000円という無視できない金額の追加負担が発生する計算となります。
今すぐ実践!ガスパルのガス代を安くする節約術
一般的な入居者が取り得る対策は、日々のガス使用量そのものを削減することです。ここでは、具体的な節約術とその効果を数値で示すとともに、料金交渉や会社変更といった手段の現実性についても解説します。
日常生活における節約術とその効果
日々の生活習慣をわずかに見直すことで、ガス料金を確実に削減することが可能です。重要なのは、どの方法がどれほどの効果を持つかを把握し、継続的に実践することです。以下に、主要な節約術とその年間削減効果の目安を示します。
| 分類 | 節約行動 | 年間削減効果(目安) |
|---|---|---|
| 浴室 | 追い焚きの回数を1日1回減らす | 約6,190円 |
| 浴室 | シャワーの使用時間を1日1分短縮する | 約2,070円 |
| 浴室 | 浴槽の設定温度を2℃下げる | 約5,900円 |
| 台所 | 食器洗いの給湯温度を低温に設定する | 約1,430円 |
| 台所 | 野菜の下茹でに電子レンジを活用する | 約950円~1,060円 |
| 台所 | 調理時の火力を強火から中火にする | 約390円 |
この表が示すように、特に効果が大きいのは浴室での対策です。追い焚き回数の削減やシャワー時間の短縮は、それぞれ年間数千円単位の節約につながる可能性があります。これらの行動を複数組み合わせることで、年間1万円以上のガス代削減も十分に実現可能でしょう。
ただし、これらの節約術は「料金単価そのものが高い」という根本問題の解決には至りません。あくまで高額な料金体系を軽減する努力に過ぎないという限界も認識しておく必要があります。
料金交渉とガス会社変更の現実性
日々の節約努力を行ってもなお料金が高いと感じる場合、ガス会社への直接的なアプローチを検討するかもしれません。しかし、その実現可能性は極めて低いのが実情です。
料金交渉: 地域の平均価格と比較して著しく料金が高いことをデータで示し、値下げを要請すること自体は可能です。しかし、前述の通り、ガスパルは競争に晒されていないため、交渉に応じるインセンティブが乏しいです。値下げが実現するケースは稀であり、過度な期待はできません。
ガス会社の変更: これは原則として不可能です。物件のガス設備全体の供給契約はオーナーとガスパルの間で締結されています。この契約期間中(通常10年以上)、個々の入居者が独断で供給会社を変更することは契約上できません。建物の所有権とガス供給の権利が一体化しているため、入居者には契約主体としての権限がありません。
結論として、入居者が自身の裁量で料金単価そのものを引き下げることは、構造的にほぼ不可能であると言わざるを得ないのです。
最も効果的な手段は「都市ガス物件への引っ越し」
日々の節約努力には限界があり、料金交渉も現実的ではない以上、「LPガス料金が高い」という根本問題を解決するための最も確実な手段は、より安価なエネルギー供給を受けられる物件へ移転することです。ここでは、この最終解決策を実行する際の費用と、それによって得られる長期的な利益を比較検討し、経済合理的な判断基準を提示します。
移転に伴う初期費用
移転という選択肢を検討する上で最大の障壁となるのが、高額な初期費用です。この費用を正確に把握することが、費用対効果分析の第一歩となります。ここでは、家賃8万円の物件へ移転する場合の初期費用をモデルケースとして試算します。
| 費用項目(算出根拠) | 試算額 |
|---|---|
| 敷金(家賃1ヶ月分) | 80,000円 |
| 礼金(家賃1ヶ月分) | 80,000円 |
| 仲介手数料(家賃1ヶ月分) | 88,000円 |
| 前家賃(家賃1ヶ月分) | 80,000円 |
| 保証会社利用料(家賃0.5ヶ月分) | 40,000円 |
| 火災保険料(2年契約) | 20,000円 |
| 鍵交換費用(定額) | 20,000円 |
| 引っ越し業者費用(単身・平均) | 50,000円 |
| 初期費用合計(目安) | 458,000円 |
この試算が示すように、移転には家賃の5~6倍に相当する、約46万円ものまとまった資金が必要となります。しかし、このコストは一度限りの支出であるのに対し、ガス料金の差額は居住し続ける限り毎月発生します。したがって、判断は長期的な視点に基づいて行われるべきです。
長期的視点でのコストシミュレーション
移転が経済的に合理的かどうかを判断するためには、「移転にかかる初期費用」が「移転によって得られる毎月のガス代節約額」で何ヶ月後に回収できるか、すなわち損益分岐点を計算する必要があります。
| 内容 | 金額・期間 |
|---|---|
| 移転前の月額ガス代(LPガス・10 m³) | 9,000円 |
| 移転後の月額ガス代(都市ガス・同熱量) | 6,000円 |
| 月々のガス代節約額 | 3,000円 |
| 移転にかかる初期費用合計 | 458,000円 |
| 損益分岐点(月数) | 152.7ヶ月 |
| 損益分岐点(年数) | 約12.7年 |
このシミュレーション結果では、月々3,000円のガス代を節約できたとしても、移転にかかった約46万円の初期費用を全額回収するには、152.7ヶ月、すなわち約12.7年という非常に長い期間を要することが分かります。
したがって、移転が経済的に有効な手段となるのは、少なくとも13年以上同じ物件に住み続けるという長期的な居住計画がある場合に限られます。数年での再移転を考えている場合、初期費用を回収できず、結果的に経済的損失を被る可能性が高いです。
まとめ
今回は、大東建託のガス代が高い理由と、その対策について詳しく解説しました。最後に、本記事の重要なポイントをまとめます。
- 「料金が高い」は構造的な問題である:大東建託のガス料金が高い主因は、高コストなLPガスを供給していることに加え、ガス供給会社(ガスパル)が競争原理の働かない独占的な市場を形成している点にあります。
- 入居者による対策には限界がある: 浴室や台所での日々の節約努力は、ガス代を年間1万円以上削減する可能性があり、実践すべき有効な手段です。しかし、料金単価そのものを決定している契約構造に対し、個々の入居者が交渉や会社変更によって介入することは、契約主体でないため事実上不可能です。
- 移転は長期的な視点で判断すべきである:根本的な解決策である「都市ガス物件への移転」は、最も効果的である一方、家賃の5~6ヶ月分に相当する高額な初期費用を要します。費用対効果分析の結果、この初期費用を月々のガス代節約額で回収するには10年以上の期間が必要となるでしょう。したがって、移転は短期的なコスト削減策ではなく、長期的な居住計画に基づいて判断されるべきです。
入居者が抱くガス料金への不満は、その多くが個人的な感覚の問題ではなく、市場構造と商慣行に根差した正当なものです。本記事が提供した分析とデータが、現状を正確に理解し、自身の状況に合わせた合理的かつ最適な対策を講じるための一助となれば幸いです。
