ニュースなどで「ホルムズ海峡の緊張」という言葉を耳にする機会が増え、私たちの生活にどのような影響があるのか不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか 。ホルムズ海峡は、中東のペルシャ湾とオマーン湾を隔てる非常に狭い海峡です。この記事では「なぜ、この遠く離れた海峡の出来事が、私たちのガス代に関係するか」を分かりやすく解説します。

この記事で分かること

  • ホルムズ海峡の緊張が日本のエネルギー供給に与える影響と、ガス代が変動する仕組み
  • 中東情勢の変化に伴う、家計への具体的な負担増のシミュレーション
  • 光熱費の高騰リスクに備えて、今すぐ実践できる固定費の見直し方法と料金比較サービスの活用メリット

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ホルムズ海峡の緊張がなぜガス代に関係するのか?

中東のホルムズ海峡で緊張が高まると、なぜ遠く離れた日本のガス代が上がってしまうのか。最新の統計をもとに、3つのポイントに絞って分かりやすく解説します。

なにが起きているのか:世界全体のLNG供給の約20%を占める国のガスが止まる

日本の貿易統計(2025年実績)によれば、日本のLNG輸入量全体に占める中東地域のシェアは10.8%です。このうち、ホルムズ海峡を通過せずにアラビア海から直接輸出が可能なオマーンからの輸入シェアが4.5%を占めています。残るホルムズ海峡を内側に抱える国からの輸入シェアは、カタールが5.3%、アラブ首長国連邦(UAE)が1.0%であり、日本におけるLNGの直接的な「ホルムズ海峡依存度」は実のところ6.3%にとどまっています。

これは日本がオーストラリアやアメリカなど、中東以外からの調達を増やしてきた努力の成果です。しかし、安心はできません。ホルムズ海峡が封鎖されると、世界全体のLNG供給の約20%を占めるカタールなどのガスが止まってしまいます。すると、今までカタールから買っていたヨーロッパやアジアの国々が、一斉に日本と同じ「アメリカ産」や「オーストラリア産」のガスを買いに走ります。

なにが変わるのか:「安全なガス」の値段が、世界中で一気に跳ね上がる

「日本に届く船が止まる」ことよりも、「世界中で限られた在庫の奪い合いが起き、価格が跳ね上がる」ことが、今の日本にとっての大きな脅威です。実際に2026年3月時点で、LNGの価格は65%も急騰しました。これは日本がどこから輸入していようと関係なく、「国際的な相場」に連動して輸入価格が決まる仕組みだからです。

  • 世界的な獲得競争: 供給が止まると、「いくら払ってでも買う」という国が出てくるため、市場価格が暴騰します。
  • 調達の遅れ: 新しいガス田を作ったり、運ぶための船(タンカー)を増やしたりするには数年単位の時間が必要です。そのため、短期的には「奪い合い」を止める手段がありません。

このように、エネルギー市場は世界中でつながっているため、地球の裏側の出来事がそのまま日本の家計を直撃する構造になっています。

ガスとの関係:「都市ガス」も「プロパンガス」も影響は避けられない

お住まいの地域によって使うガスの種類は異なりますが、「都市ガス」も「プロパンガス」もホルムズ海峡の緊張による影響を強く受けます。

  • 都市ガス(LNG):前述の通り、世界的な「奪い合い」によって輸入価格が上がります。日本のガス会社は、この輸入価格の変化を毎月の料金に反映させる(燃料費調整制度)ため、ダイレクトに都市ガス料金が上がります。
  • LPガス(プロパンガス・郊外に多い):実は、プロパンガスの方が深刻かもしれません。LPガスは、輸入した「原油」を精製する過程でも作られます。日本のLNGの依存度は6.3%ですが、原油の依存度は93.5%と極めて高く、そのほとんどがホルムズ海峡を通過します。
    原油が入ってこなくなれば、LPガスの生産コストも跳ね上がります。つまりLNG高騰による連動と、原油不足による供給不安という二重の打撃を受けることになります。

日本はガスの輸入先を分散させることには成功しましたが、「世界の誰かが困れば、みんなの値段が上がる」というグローバル経済のルールからは逃れられません。ホルムズ海峡の緊張は、私たちのキッチンのコンロやお風呂の給湯器に、確実に「コスト」という形で跳ね返ってくるのです。

【シミュレーション】家計への具体的な影響

国際市場でのLNG価格や原油価格の高騰は、翌日の私たちの生活に直結するわけではありません。日本のガス料金には、為替レートや化石燃料の輸入価格の変動を月々の料金に自動的に反映させる「原料費調整制度(電力の場合は燃料費調整制度)」というシステムが組み込まれています 。このシステムの設計上の特徴が、消費者に対して「時間差のショック」をもたらします。

原料費調整制度における算定と反映の遅延メカニズム

東京ガスなどの主要エネルギー企業の料金体系を例にとると、原料費調整制度は一定期間の平均原料価格を算定の基礎とし、それを数ヶ月後の検針分の料金に適用する仕組みとなっています。

具体的に2026年4月検針分のガス料金を算定する場合、その基礎となるのは「2025年11月~2026年1月」という過去3ヶ月間の平均原料価格です。このように、原料価格が実際に市場で取引された時期から、日本の一般家庭のガス料金として請求されるまでには、約3ヶ月から5ヶ月のタイムラグが存在します。

2026年における価格ショックのスケジュールと政府補助金の縮小

さらに家計を悪化させているのが、日本政府による「電気・ガス料金負担軽減支援事業」の段階的な縮小です。政府は物価高対策として2026年1月から3月までの間、電気・ガス代の支援を実施してきました。

対象エネルギー2026年1月・2月使用分2026年3月使用分(4月検針分)
都市ガス18.0円/㎥6.0円/㎥
電気(低圧・一般家庭)4.5円/kWh1.5円/kWh
電気(高圧・企業等)2.3円/kWh0.8円/kWh

※プロパンガス(LPガス)は本支援策の対象外

上記のデータが示す通り、2026年3月使用分(4月検針分)から、政府の補助額は都市ガスで18.0円/㎥から6.0円/㎥へと3分の1に縮小されました。

東京ガスの2026年4月検針分のデータを見ると、2025年11月〜2026年1月の原料価格に基づく単位料金の上方調整(+13.87円/㎥)が行われており、標準家庭(月間30㎥使用)の場合、前月比で月額416円(税込)の負担増となっています。群馬地区(月間36㎥使用)においても、同様に月額494円の負担増が報告されています。

ただし、これは「ホルムズ危機前の比較的安定していた時期」の原料価格が反映された結果に過ぎません。2026年夏以降には、「3月の価格急騰(65%増)の本格的な反映」と「政府の補助金の完全終了または大幅縮小」という二つの要素が同時に家計を直撃します。

リスクレベル別・家計負担増減シミュレーション

以上の市場環境と制度的背景を踏まえ、2026年夏以降に予想される日本の一般家庭における光熱費全体への具体的な影響を推計し、想定されるリスクレベル別に整理しました。

リスクシナリオ地政学的背景とサプライチェーンの状況エネルギー価格への影響(推計)家計への具体的影響(月額・生活面)
警戒レベル(小規模・短期的混乱)海峡の一部制限、保険料の高騰、タンカーの迂回航行による一時的な輸送コストの上昇。カタールの不可抗力宣言が早期解除される場合。光熱費全体の5%〜10%程度の上昇・毎月の光熱費が数百円〜数千円増加。・原料費調整制度を通じた緩やかな値上げ。・生活必需品への軽微な価格転嫁。
深刻レベル(現状の継続・部分封鎖)【2026年現在のメインシナリオ】海峡の実質的封鎖が継続。カタールの供給停止(世界シェア20%喪失)が数ヶ月続き、国際市場での代替LNG獲得競争が激化。光熱費全体の20%〜40%の大幅上昇・毎月の負担が数千円〜1万円規模で増加。・物流コスト高騰による食品・日用品の便乗値上げ。・家計の可処分所得が明確に圧迫される。
危機レベル(完全封鎖・長期化)中東全域の武力衝突への発展。原油調達(依存度93.5%)も長期間途絶え、世界的パニックによる価格の青天井化。供給制限の実施、価格統制不能な高騰・料金高騰に加え、節電・節ガスの国家要請。・計画停電の可能性。・インフレ率の急伸によるマクロ経済のスタグフレーション。

特に、自由料金制のプロパンガス市場においては、卸売価格の上昇を理由に一部の販売事業者が値上げを先行させるリスクがあり、都市ガス以上に不確実性が高い状態にあるでしょう。

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これからどうなる?日本の備蓄と価格への圧力

続いて「なぜガスは石油よりも融通が利かないのか」という物理的な弱点と、日本の「備蓄」の実状について説明します。2026年現在の緊迫した情勢を踏まえ、「私たちの暮らしにこれから何が起きそうか」という視点でまとめました。

「取り扱い注意」なガスの弱点:石油のように簡単にはいかない理由

ガスは石油と違って、「超巨大な魔法瓶」がないと運べません。石油は常温でドロドロした液体なので、普通のタンカーで運び、普通のタンクに貯めておけます。しかし、LNG(液化天然ガス)はそうはいきません。

LNGは常温常圧の天然ガスをマイナス162度という極低温まで冷却し、体積を約600分の1に圧縮したものです。この特性を維持するため、LNGの輸送には高度な保冷・断熱技術を備えた専用の特殊タンカーが必要となります。

石油なら「中東がダメなら他から空いてる船を持ってこよう」と融通が利きますが、LNGの輸送には、代わりの船をすぐに見つけることができません。この「融通の利かなさ」が、わずかな供給不安でも価格を爆発的に跳ね上げる原因になります。

大回り航路の代償:時間とコストが家計をじわじわ攻める

海峡が通れないなら「アフリカを回ればいい」…そんな単純な話ではありません。もしホルムズ海峡やスエズ運河が危険で通れなくなると、タンカーはアフリカ南端の「喜望峰」を回る大回りルートを選びます。これは、例えるなら「エレベーターが故障して、1階から100階まで階段で荷物を運ぶ」ようなものです。

  • 到着が数週間遅れる: 船が海の上にいる時間が長くなるため、次に運べるはずだったガスの予定がどんどんズレ込みます。
  • 「船不足」の発生: 1回の輸送に時間がかかるということは、世界中で動ける船が実質的に減るということです。すると、船を雇うための「運賃」が数倍に跳ね上がります。
  • 保険料の暴騰: 紛争地近くを通るだけで、船にかける保険料が跳ね上がり、そのコストはすべてガス代に上乗せされます。

たとえ戦争がすぐに終わっても、海にまかれた機雷の除去や、バラバラになった船のスケジュールの立て直しには数ヶ月から1年以上の時間がかかります。2026年現在起きている価格高騰は、こうした「物流の目詰まり」が長引くことで、すぐには収まらない可能性が高いのです。

日本の備蓄の限界:ガスは止まらないが、家計は削られる

日本は過去の教訓から、世界トップクラスの「備蓄」を持っています。しかし、「ガスの長期保存」は物理的に不可能です。

  • 石油(原油): 国内には約250日分(約8ヶ月分)の石油が貯められています。たとえ中東からの船が完全に止まっても、ガソリンやプロパンガスの原料が明日なくなることはありません。
  • ガス(LNG): 先ほど説明した「マイナス162度」を維持するのは難しく、放っておくとガスが蒸発して逃げてしまうため、LNGは長期保存に向きません。

そこで日本は「タンクに貯める」代わりに、オーストラリアやアメリカなど「買う場所をバラけさせる」ことで備えを固めてきました。しかし、ここが一番大事なポイントですが、「備蓄がある=値段が上がらない」ではありません。国の備蓄やルートの分散は、あくまで「電気が消える」「ガスが止まる」という最悪の事態を防ぐためのものです。

電力会社やガス会社が「高い値段」で代替のガスを買ってきている以上、そのコストは「原料費調整制度」を通じて、数ヶ月後の私たちの請求書に必ずやってきます。これから先、「エネルギーは供給されるけれど、支払いは重くなる」という、家計にとってタフな状況が続くことが予想されます。

まとめ:固定費を見直してリスクに備えましょう

ホルムズ海峡を巡る情勢は、私たちの生活と切り離せない関係にあります。最後に、重要なポイントをまとめます。

  • ホルムズ海峡が封鎖されると、世界全体のLNG供給の2割以上が止まる
  • 情勢不安は「原料費調整制度」を通じて数ヶ月後のガス代に反映される
  • 日本は備蓄やルート多角化を進めているが、価格高騰への備えは必須

現在の中東情勢がすぐに変わることはないでしょうが、「毎月のガス代を安く抑えるための見直し」は今すぐ始めることができます 。
まずはご家庭のガス料金が適切かどうか、シミュレーションしてみるのが大切です。ガス会社を切り替えることで、情勢に関わらず月々の負担を軽減できる可能性があります。
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今村 一優の写真

エネルギー事業部責任者

今村 一優

新卒で太陽光発電事業を行うベンチャー企業に入社。商社部門の仲卸営業として、国内外の太陽光発電メーカーの商品を取り扱い、全国の販売施工会社を担当。その後、太陽光発電の一括見積もりサイト運営にも携わる。
2015年にはプロパンガス料金比較サービスenepi(エネピ)の立ち上げを行い、数万人のプロパンガス代削減のサポートをするサービスへ成長させる。
エネルギー領域で10年以上携わった経験と知識を活かして、じげんエネルギー事業のマネージャーにて事業開発を行なっている。

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ライター

藤巻 創

電気・プロパンガスに関する記事のライティングを担当。
制作ポリシーに基づいてエネルギー全般の記事作成・管理を行う。