20164月からスタートした「電力の小売全面自由化」により、消費者が契約する電力会社を選択できるようになりました。
そして電力に引き続き20174月には、都市ガスの小売り全面自由化も実施されることが確定しています。
価格・サービスの両面を見比べながら選択することができることで、消費者の生活がより豊かになることが期待されています。
政府は、公平なガス事業競争を行わせるために「ガスの導管分離」を2022年に開始する方針です。
「導管分離」について、この機会に詳しく理解しておきましょう。

導管分離とは

日本の都市ガスは、各事業所がそれぞれ特定のガス導管を維持・運用しています。
この導管を通って、一般の家庭へとガス供給されているのが現在の状況です。


都市ガス事業者の中でも大手である東京ガス・大阪ガス・東邦ガスは、市場の約7割のガス導管を保有しています。
2016年時点で、「導管分離」の対象はこの大手3社に限定されています。


消費者に都市ガスを送るためには、導管が不可欠です。
「都市ガス自由化」が始まろうとしている中、そもそも使えるガス導管がないと、事業家たちは新規参入することができません。


そこで導管事業を、ガスの製造・小売会社とは別の会社に委託するという「導管分離」を行うことになったのです。
具体的に言うと、ガス導管の整備・管理から小売りまで一貫して手掛けてきた大手の都市ガス会社から、ガスを運ぶ導管部門を分離させて別会社化するという計画です。


事業を分別することにより、徹底した管理の実現と、競合する企業たちの中立性を確保することを目的としています。

ガスの導管とは

国内のガス市場は、石油系のプロパンガス(LPガス)事業、そして天然ガスを主とした都市ガス事業が、およそ半数ずつの割合を占めています。


プロパンガス(LPガス)は、家庭用のものは充てん所にてボンベ容器に詰め替えられて、各需要家へ運搬されます。
一方、都市ガスは、地域によって決められた都市ガス事業者が運営・管理している導管を伝って消費者へ送られていきます。


都市ガス事業者がユーザーへガスを送るための地下にある管が、今回のテーマとなっている「ガスの導管」です。
このガスの導管に関わる事業内容を、東京ガス・大阪ガス・東邦ガスの3社から分離させるというわけです。

導管分離は2022年

日本政府は、導管分離を2022年までに実現する方向で動いています。
大手ガス会社の導管部門を別会社化することによって、新規参入する企業を増やしたいという狙いがあります。
さらに、新規のガス事業者も許可を得ればガス導管を設置できるようになるため、ガス市場でより競争が起こりやすくなる可能性があります。


また前述のように、ガス導管がないと都市ガスを消費者へ届けることはできません。
しかし現時点ではガス導管自体が通っていない地方もあります。ガス自由化が始まっても、導管がないエリアに住むユーザーは都市ガス会社と契約しようがありません。
導管分離によって、新たに導管部門事業を始めた会社がガス導管を新設できるようになれば、全国的に導管網が整備されることも期待できます。


ガス自由化の本格的なサービスの形態が整えば、ガス事業者たちは様々な供給サービスを展開していくことが予想されます。
低価格のガス料金プランや、ポイント付加サービス、セット割引など、これまでにない新しいガス供給契約の選択肢が広がり、利用者たちはライフスタイルに合ったサービスを受けられるようになります。

ガス導管分離の難しさ

ガス導管事業を分離することは、電力自由化で送電事業を分けるよりもずっと難しいとされています。


電力の場合、送電網である電線が、すでに全国に繋がった状態で張り巡らされていました。
電気事業の新規参入者たちも、この電線を使って電力を供給すれば良いため、全国各地へ送電するのは難しいことではなかったのです。


これに対してガス導管は、エリアごとに管理している事業者が敷設している上に、相互で繋がっていないケースが多く、地方によっては導管そのものがありません。
また地域によっては、多数の都市ガス会社が存在しているところもあります。
このような状況下で、どのようにして分離していけば効率的になるのか、という問題があります。


そして導管事業を別会社化することで、災害時などにガスの保安体制をこれまで通り維持できるかどうかも、今後の課題です。

ガス自由化に与える影響

とはいえ、ガス自由化を有益な方向へ導くためには、やはり全国的に導管整備をすることが重要です。
ガスの「小売り」と「導管事業」を分離させることで、新規事業者が「導管がないから参入できない」といった不平等をなくすことができます。


新規参入が容易になれば、競争によってガス料金の値下げに繋がる可能性があります。
国全体にガス導管ネットワークが拡大しやすくなるため、まだガス導管が設けられていない区域に住むユーザーにとっても、将来的には選べるガス会社が増えるというメリットが考えられます。

まとめ

都市ガスの自由化は、2017年に向けて着実に歩み出しています。
導管分離は、日本のガス自由化の成功を左右するといっても過言ではありません。
私たちの生活と直結してくるので、今後どのようにして問題がクリアされていくのか目が離せませんね。

都市ガス自由化に関する詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。
都市ガスの小売り自由化によって、何が変わるのか?

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今村 一優の写真

エネルギー事業部責任者

今村 一優

新卒で太陽光発電事業を行うベンチャー企業に入社。商社部門の仲卸営業として、国内外の太陽光発電メーカーの商品を取り扱い、全国の販売施工会社を担当。その後、太陽光発電の一括見積もりサイト運営にも携わる。
2015年にはプロパンガス料金比較サービスenepi(エネピ)の立ち上げを行い、数万人のプロパンガス代削減のサポートをするサービスへ成長させる。
エネルギー領域で10年以上携わった経験と知識を活かして、じげんエネルギー事業のマネージャーにて事業開発を行なっている。

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ライター

藤巻 創

電気・プロパンガスに関する記事のライティングを担当。
制作ポリシーに基づいてエネルギー全般の記事作成・管理を行う。